公正証書による遺言のメリット

公正証書による遺言のメリット

1.家庭裁判所での検認の手続が不要で、公正証書に基づいてすぐに執行できる

法律は、遺言について厳格な方式を定めていますが、同時になるべく遺言しやすいように、普通の場合の方式として

①公正証書による遺言

②自筆証書による遺言

③秘密証書による遺言

の3つの方法を定めています。

 

このうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、遺言者の死亡後、遺言書の保管者又は発見者は、遺言者の出生時から死亡時までの戸籍謄本等をはじめ、相続人の戸籍謄本等を準備し、家庭裁判所に申し出て「検認」の手続を受けなければなりません。

その点、公正証書遺言は検認手続が不要で、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。

 

2.紛失・滅失しても再発行することができる

3.偽造・変造のおそれがない

4.形式の不備による無効がない

公証人の作成した公正証書遺言は、原本が公証人役場で保管されますので、必要書類を揃えれば謄本の発行を請求することができますし、偽造や変造のおそれもありません。さらに、法律の専門家である公証人が作成するものですから、方式に反するなどの理由で無効となることも避けられます。

 

5.全国の公証人役場のどこからでも、遺言公正証書の有無と作成した公証人を検索できる(遺言検索システム)

昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言であれば、日本公証人連合会において、全国的に、公正証書遺言を作成した公証人役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日などをデータベースで管理していますから、全国のどの公証人役場からでも調べることができます。ただし、遺言の内容は検索の結果には含まれませんので、閲覧・謄本請求する場合は、検索結果に基づき、当該公証人役場へお問い合わせ下さい。

なお、遺言検索は無料ですが、閲覧・謄本請求は若干の手数料がかかります。

 

もちろん、秘密保持のため、本人が生存している間は、利害関係人から問い合わせがあっても、これにはお答えしないことになっております。本人の死亡後に限り、相続人等の利害関係人のみが公証人役場の公証人を通じて照会を依頼することができることになっています。

 

遺言検索に必要な書類は、公正証書謄本の請求方法をご覧下さい。

遺言が特に必要な場合とは

遺言が特に必要な場合について、具体例をいくつか挙げてみます。

 

⑴ 夫婦の間に子供がいない場合

夫婦間に子供がなく、夫が遺産のすべてを永年連れそった妻に相続させたいときは、遺言が必要です。子供がない夫婦においては、夫の相続人は妻と夫の兄弟姉妹であって、その場合、遺言がなければ、妻の相続分は4分の3で、残りの4分の1は夫の兄弟姉妹が相続することになるからです。

 

⑵ 息子の妻に財産を贈りたい場合

息子の妻は、夫の両親の遺産については、全く相続権がありません。例えば、夫に先立たれた妻が、亡夫の親の面倒をどんなに長い間みていたとしても、亡夫との間に子供がいないときは、亡夫の親の遺産は、すべて亡夫の兄弟姉妹が相続してしまいます。このような場合には、遺言で息子の妻のために然るべき遺産を贈る(これを「遺贈」といいます)ようにしておくのが思いやりというものです。遺言は残された者へのメッセージといえるでしょう。

 

⑶ 特定の相続人に事業承継、農業承継をさせたい場合

個人事業主や、会社組織になっていても、その株式の大部分を持っている人の場合、その事業を特定の子に承継させる必要があるときがあります。例えば、複数の子のうちの1名が、親の片腕となって事業経営に当たっている場合には、その事業用財産や株式が法定相続により分割されると、経営の継続が保てなくなることがあります。法定相続人の間で分割協議をめぐって争いが生じることもあります。農業経営についても同じような問題があります。このようなことを防ぐには、遺言をして事業承継、農業承継に支障のないように定めておくことが大切です。

 

⑷ 内縁の妻に財産を残したい場合

「内縁の妻」とは、単なる同棲者ではなく、社会的には妻として認められていながら、婚姻届が出されていない事実上の妻のことです。このような内縁の妻には、内縁の夫の遺産についての相続権は全くありません。したがって、内縁の夫が、内縁の妻に財産を残したいのであれば、遺言で遺産を贈る配慮をしておくことが必要です。

 

⑸ 相続人が全くいない場合

相続人が一人もいない場合は、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。そこで、遺産を親しい人やお世話になった人にあげたいとか、社会福祉関係の団体・菩提寺・教会等に寄付したいという場合には、その旨を遺言しておく必要があります。

 

⑹ その他

相続人間で紛争が予測される場合、相続人が外国に居住している場合、遺産を公益事業に役立てたい場合、知人や友人に遺産を贈りたい場合、相続権のない孫に遺産を贈りたい場合、身体障害者である子供により多くの遺産を残したい場合などは、あらかじめ遺言で、相続人間の遺産の配分方法や相続人以外に特定の人や団体に遺産を贈ることなどをはっきりと示しておくことが必要です。

遺言と遺留分

遺言は、自分の財産を、その死後にどのように処分するかをあらかじめ決めておく制度ですから、本人の自由意思によってどのように決めても構いません。

したがって、極端な場合には、たとえば、全財産を妻子にはやらないで、自分が世話になった特定の人に遺贈するという遺言もあり得ますし、このような遺言も遺言としては有効なのです。

 

しかし、この場合、一銭も遺産の分配を受けられない妻子が、一家の主人に先立たれ、たちまち路頭に迷うことになっては大変です。そこで、このような場合に妻子等の一定の相続人を保護するために、その者に分配される遺産の割合を最小限度確保しようというのが遺留分の制度です。

 

この場合、妻子は、このような遺言のあることを知ったときから1年以内に、法定の相続財産の半分について、減殺(げんさい)の請求により取り戻すことができるようになっています。しかし、1年以内にこの請求をしなければ、この権利は、時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも、この権利は消滅します。

 

いずれにしても、あらかじめ遺留分を考慮したうえで、遺言を作成しておくことが賢明です。しかし、実際には、多くの場合すでに遺産の前渡し分があったりして、遺留分の計算方法はなかなか複雑で困難です。

 

したがって、あとになって争いにならないように、遺言は誰が見てもそれが最良だと思われる納得のいくものであることが望ましいでしょう。

老後の安心設計 任意後見契約

遺言と同様、老後の安心の手段として任意後見制度があります。

任意後見制度は、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、例えば認知症等によって判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約、すなわち任意後見契約を公証人の作成する公正証書で結んでおくというものです。

遺言の作成とともに、任意後見契約を考えてみませんか。

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